オーナー向け情報

個人経営から法人化へ ~第1回 法人化のメリットと注意点~

2020.10.10

個人経営から法人化へ ~第1回 法人化のメリットと注意点~

賃貸経営を個人事業として続けるべきか、それとも節税を狙って法人化を検討すべきか。
複数物件を所有していて、しかも収益が十分に上がっているオーナー様にとっては悩ましい問題だと思います。たしかに賃貸経営の法人化には多くのメリットがあります。しかもそれは、広く知られている個人と法人の所得税率の差を活かした節税だけではありません。
一方で、法人化には注意すべきポイントもあります。本当に法人化する意義があるのか、じっくり腰を据えて検討することも大切です。
ミノラス不動産では、賃貸管理や建物管理にとどまらず、これまでもオーナー様からご相談を受け、賃貸経営の法人化をサポートしてきました。実際に、法人化のメリットを享受している方もたくさんいらっしゃいます。
そこで、不動産経営の法人化について、シリーズでお伝えしてまいります。

■1:不動産経営を法人化する7つのメリット  

メリット1 個人と法人の税率差(所得税と法人税)を利用
個人に課せられる所得税は、所得が大きくなるほど税率が高くなります。
これを累進課税方式と言います。サラリーマンとして働きながら、賃貸経営をしているサラリーマンオーナーの場合、給与所得と不動産所得の合計が課税対象となります。給与が上がったり、賃貸経営で家賃収入を多く得ている場合、支払う税金が多くなっていくわけです。この最高税率は住民税+所得税で55%です。
法人に適用される税金も累進課税ですが、個人の最高税率に比べると低く設定されています。たとえば所得に対する企業が負担する主な税金(法人税・法人住民税・法人事業税)の負担割合である実効税率は、かなり利益が出ている中小企業でも30%を超える程度です。この差を利用することで、最終的な納税額を減らすことが可能になります。

メリット2 所得を複数人に振り分けられる
法人化すると、奥さんや子ども、親族を役員や社員として、役員報酬や給与を支払うことができます。これらの給与は経費として計上されるので、課税対象となる所得を圧縮できます。
また、所得がゼロだったり少ない奥さんや子どもに所得を分散することで、一人に所得が集中している状態よりも適用される税率を低くできます。給与所得を他の会社から受け取っていない人を社員にすれば、個人としての給与所得控除も適用できるため、さらに税額を抑えることができます。

メリット3 法人向けの保険や共済に加入して経費計上
個人で生命保険などに加入しても生命保険料控除の枠は年間12万円しか適用できません。しかし、法人契約で被保険者を役員とするタイプの保険に加入すると、保険商品により異なりますが、支払う保険料の半額あるいは全額を経費として計上することができます。これを活かして利益を繰り延べて、定期的な大規模修繕の原資に充てるといったことも可能です。
また、共済制度に加入できるのも法人ならではのメリットです。たとえば、掛け金限度の7万円を経費として計上できる小規模共済や、全額経費にできるうえに40カ月以上支払えば全額を解約返戻金として手元に戻せる中小企業倒産防止共済などが利用できます。

メリット4 退職金や福利厚生などの制度を活用
退職金規定を作っておくことで、役員に対する退職一時金の支払いを経費として計上することができます。個人が受け取った退職一時金は退職所得としてカウントされます。勤続年数により金額が変動する退職所得控除の枠が適用されることと、給与所得や不動産所得などとは合算されない分離課税方式が用いられ、手元に残るお金を増やすことができます。
また福利厚生の規定を整えることで、自身の賃貸の住まいを法人契約の借り上げ社宅扱いとし、支払い家賃の一部を経費計上するといったやり方もあります。

メリット5 減価償却の計上で利益を調整
減価償却とは、経年によって価値が減少していく資産を購入した場合、耐用年数によって取得費を案分し、経費に計上していく方法です。
個人事業の場合は強制償却が決まりであり、毎年決められた額は全額償却しなければなりません。一方法人は、経費にする金額を自由に決められる任意償却なので、利益の調整ができます。
今後不動産投資を拡大していくつもりなら、次の融資が受けやすいよう対策を講じることが必要です。この時、減価償却費で帳簿を赤字にしないように調整できる点では、法人の方が融資対策に有利になるといえるでしょう。決算書に赤字がない方が、金融機関からの印象が良くなる可能性があります。ただし法人であっても、きちんと減価償却費を計上しているかどうかをチェックする金融機関も多いです。減価償却費の調整によって赤字を避けることが、必ずしも融資審査にプラスに働かないケースもあるため、税理士などの専門家に相談するなど、注意は必要です。

メリット6 赤字をより長い期間繰り越し
ケースとしては少ないと思いますが、賃貸経営で赤字が出てしまった場合でも法人化のメリットは活かすことができます。
個人事業として青色申告を行っている場合、欠損金の繰越控除によって、翌年以降の利益と相殺することができますが、その期限は3年です。法人であれば、この期限が9年まで延びます。

メリット7 相続対策として活用
個人から法人に不動産の所有権を移転することで、相続税の対象となる財産が減ります。よって、将来支払う相続税の圧縮につながります。また、妻や子どもを法人の役員や社員にして所得分散することは、生前からの資産移転の役割も果たしています。家賃収入を給与所得して受け取り、現金を手元にプールしておけば、相続税の納税が必要になった際にも安心です。

■2:法人化の注意点  

注意点1 所有権の移転方法
不動産からの家賃収入を法人の収益をするためには、個人から法人へ不動産の所有権を移転する必要があります。この際の移転方法には注意が必要です。これを間違うと多額の税金が発生してしまったり、不要な費用がかかる可能性があります。
個人からの法人への不動産の所有権移転には、①売買、②現物出資、③贈与の3つの方法があり、法人化の主目的や、賃貸経営の状況によって最適な方法が異なってきます。
「売買」を選択する場合、所有権移転と同時に、法人から個人へ売買代金を支払います。この売買代金は、金融機関からの借り入れのほか、個人から法人に対する貸付で賄うことがあります。  「現物出資」は、資本金として現金を入れる代わりに不動産そのものを出資する形式ですが、資本金が1,000万円以上になると法人税負担が上がったり、不動産鑑定評価に関する書類を要したりします。  いずれの方法も最終的なメリットと天秤にかけてよく検討する必要があります。ちなみに不動産にまだ借り入れが残っている場合も、移転方法に選択に影響します。抵当権を設定している金融機関に事前に承諾を得ないで移転登記を行うと、一括弁済を求められる可能性もありますので、必ず法人化を検討するなかで相談が必要です。

注意点2 法人の設立・維持にかかる費用と手間
法人は設立時、そして維持していくうえでも費用がかかります。例えば、株式会社を設立した場合、右表のような費用がかかります。
また、会社設立にあたっての手続きや書類の作成には、手間も時間もかかります。現実的には税理士や司法書士、行政書士に頼むことになるため、その報酬も計算に入れておく必要があります。

そして、決算が赤字であれば税金を支払う必要がない個人と違い、法人はたとえ赤字であっても税金が発生します。法人住民税の7万円です。また、役員等に給与を支払っている場合、源泉徴収税や社会保険料を給与額に応じて納めなければなりません(右表下)。

なお、個人の確定申告に比べて法人の確定申告は複雑です。申告に必要な財務諸表類の作成には手間も時間もかかります。ほとんどの場合、税理士との顧問契約を結び、手続きを代行してもらいますが、当然ここでも定期的な報酬の支払いがあります。
その他、決算公告や株主総会の実施、社会保険料や都道府県税の納付、償却資産申告書の提出など、細々とした手続きが発生します。外注するなら、やはり費用面を考慮しておかなければなりません。

注意点3 株主、役員を誰にするか
法人には必ず出資者が必要です。株式会社では、いわゆる株主にあたります。相続を考慮した際、不動産のオーナーは株主になってはいけません。将来、保有する株式が相続財産とみなされ、相続税が課される可能性があるからです。長期的な目でみれば、配偶者ではなく子どもを名義上の出資者として株主にするのが良いことが多いです。サラリーマンの場合、就業規定で勤務先以外の企業の役員に就任することを制限されていることもあるでしょうから、なおさら、自分以外の親族を出資者や役員にするメリットがあります。
また、未成年や学生の子どもや親族を役員として給与を支給すると、労務実態がないとみなされて税務署から申告を否認される可能性があります。

次月号では、設立した法人の活用パターンについてお伝えします。個別でのご相談、税理士や司法書士のご紹介もできますので、お気軽にご相談ください。